海外が評価する「Vibe」の正体:地域専門知AIで感情的共鳴を持続収益へ繋げ

海外メディアに見る「日本の観光地」の評価

はじめに

記録的なインバウンド回復が続く2025年、日本の観光地は「いかに多くの客を呼び込むか」という量的な議論から、「いかに質を高め、持続的な収益を確保するか」という質的な議論へとシフトしています。この転換期において、海外の主要メディアは日本の観光をどう見ているのでしょうか。特に、CNNやForbesといった影響力の高いメディアが指摘するのは、単なる名所旧跡や食文化の素晴らしさではなく、旅行者が日本で得ようとしている「感情」そのものの価値です。

海外富裕層やリピーターが増える中、彼らが求めるのは、従来のパッケージ旅行では得られない、より深い「つながり」と「真実性(オーセンティシティ)」です。本稿では、Forbesが指摘した最新の旅行トレンドを分析し、日本の観光行政および地域事業者が今すぐ取り組むべき、感情的共鳴を収益化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の方向性を探ります。

海外が評価する「日本」の新たな価値:日常に宿るオーセンティシティ

米経済誌Forbesは2026年の旅行トレンド予測に関する記事で、旅行者のモチベーションが「目的地(Destination)」から「感情(Emotion)」へと移行している点を強調しました。記事は「Travel Trends In 2026 Are About Emotion, Not Destination」と題し、回答者の25%が「Vibe(雰囲気や感覚)」を基準に旅行の検索を始めているという調査結果を紹介しています。(出典:Forbes, 2026年1月29日付 / URL

この「感情ドリブン」な旅行において、日本は何が評価されているのでしょうか。それは、文化や自然といった大規模なコンテンツだけではなく、極めて日常的な風景や体験です。

特にForbesの記事が指摘したのは、「グロサリーストア・ツーリズム(Grocery-store Tourism)」という新たなトレンドです。これは、旅行者が単に買い物を目的とするのではなく、「地元の人のように生きるための窓口」として、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなど、ありふれた日常の店舗を巡るという現象です。日本の「7-Eleven」がその例として挙げられています。

これは、旅行者がSNSなどで共有される「映える」情報だけを追うのではなく、「その地域の一員になったような気分になりたい」という感情的共鳴を求めている証左です。日本のきめ細かく整頓されたコンビニや、地域色豊かな地元の商店は、海外の旅行者にとって、計画された観光地以上に「本物の日本」を感じられる場所となっているのです。

記事が指摘する日本の観光地の改善点・弱点:感情的満足度の設計不足

Forbesの記事は、日本の弱点を直接的に批判しているわけではありません。しかし、「感情」が旅行の究極の通貨となる時代において、日本の観光業界が抱える構造的な弱点が浮き彫りになります。

1. サービスの「文脈」不足
日本の観光地は、「何を(コンテンツ)」提供するかには長けていますが、「なぜ(文脈)」それを体験するのか、その体験が旅行者の感情にどう響くのか、という設計が不足しがちです。地元のコンビニの魅力は、単なる商品の陳列ではなく、「深夜に地域住民が利用する静かな様子」や「店員とのさりげないやり取り」といった、その場の雰囲気(Vibe)にあります。現在の観光施策やDX投資は、この「文脈」や「感情」をデータとして捉える仕組みになっていません。

2. 均質化とオーバーツーリズムの深刻化
感情的な満足度が求められる一方で、日本が多くの人に提供している体験は均質化しています。SNSでバズった場所やガイドブックの定番を訪れても、旅行者が感じるのは「混雑」と「ストレス」です。これは感情的共鳴とは真逆の体験であり、客単価やリピート率の停滞、ひいては地域住民との摩擦(オーバーツーリズム)を引き起こす根本原因となります。

現場の課題として、観光協会やDMOのスタッフは、地元の商店主や高齢者、特定の時間帯にしか出現しない「Vibe」を知っていますが、その知見は個人の経験に依存し、データ資産として蓄積・流通されていません。これは、観光収益を持続させるための専門知がアナログなブラックボックスの中に閉じ込められている状態を示します。(あわせて読みたい:AI専門知の標準化:観光DXを持続的収益基盤へ転換せよ

地域が今すぐ取り組むべきDX:感情的共鳴を収益化するデータ基盤構築

海外メディアが指摘する「感情」や「日常」への渇望は、日本の地域経済にとって、ラストワンマイルの体験を高付加価値化し、収益基盤を確立する絶好のチャンスです。

地域が今、補助金ベースの一過性のアプリ開発やウェブサイトリニューアルではなく、収益と持続可能性に直結する基盤的なDX投資を行う必要があります。

1. 「Vibe」を商品化するための専門知AI標準化

地域が持つ真の魅力、すなわち「感情的共鳴」を生む情報源は、地域住民や現場のプロフェッショナルが持つ暗黙知(専門知)です。「あそこの交差点は、朝6時に特定のアングルで見ると光が美しい」「この古い茶屋の主人は、外国人には英語でなく筆談で話すのが好きだ」といった、極めて個別的で、その場の「Vibe」を決定づける情報こそ、高付加価値な体験の源泉です。

この専門知をAIに学習させ、旅行者の興味や属性、移動履歴と組み合わせることで、従来のアルゴリズムでは提示できなかった、パーソナライズされた「感情設計された行程」を提案します。これにより、観光客は「自分だけが発見した」という高い満足度(感情的リターン)を得て、消費行動に結びつきやすくなります。

DX実装の具体例:
地元ガイドや商店主の行動規範、特定の場所でのサービス提供のコツなどを構造化データとしてAIにフィード。旅行者が移動インフラ(MaaS)を通じて特定の地域に近づいた際、その場の「Vibe」を乱さないための適切な行動情報や、感動を最大化するためのマイクロ体験(例:地元のパン屋の限定品、隣の席の地元住民との交流を促すきっかけ)を、シームレスに個人のデバイスに通知するシステム。

2. 移動体験の「隔離性」を収益に変えるラストワンマイルDX

感情的な旅の満足度を高めるためには、ストレスの少ない移動が不可欠です。しかし、富裕層や体験重視の旅行者は、混雑した移動手段ではなく、「隔離された移動体験」を求めます。ラストワンマイルの移動手段(ライドシェア、オンデマンド交通など)は、単なるA地点からB地点への移動手段ではなく、次の目的地への期待値を高めるための「個室体験」として再定義されるべきです。

もし、地方の移動インフラが、地元の「Vibe」を安全かつプライベートな空間で味わえるように設計されれば、移動自体が観光コンテンツとなり、高い対価を支払う価値が生まれます。

DX実装の具体例:
高精度なデジタルアドレス(場所特定技術)と公的認証連携(旅行者の信頼性確保)を基盤とし、地域のタクシー会社や住民ドライバー(ライドシェア)が、移動中に地域の歴史や「日常の光景」を静かに伝えるための専用デジタルコンテンツを提供する。この高品質な「移動体験」を、標準料金の数倍の価格で予約・決済可能にする。これにより、地方の慢性的な交通インフラの赤字を、高付加価値化された体験収益で補填する構造を作ることが可能になります。(あわせて読みたい:地方の移動インフラ赤字を解消:体験DXで富裕層の滞在時間を収益に変える

3. 収益性(ROI)と持続可能性への貢献

感情ベースの観光DXは、単なる利便性向上を超え、地域経済に明確なROIをもたらします。

  • 客単価(ROI)の向上:感情的な満足度が高い旅行者は、滞在時間が延長し、それに伴い飲食、宿泊、二次交通における消費意欲が高まります。単なるモノ消費から、高付加価値な「感情的体験」への対価支払いに転換されます。
  • 地域資源の再評価(サステナビリティ):「グロサリーストア・ツーリズム」が示すように、従来の観光コンテンツではなかった日常の風景や小さな商店が収益を生む資源として再評価されます。これにより、観光客の地域分散が進み、過度に集中していた特定地域への依存を減らし、地域全体での経済循環と持続性を高めます。
  • 担い手不足の解消:高度に標準化されたAI知見とデジタルツールが現場スタッフを支援することで、限られた人材でも高品質な「感情を込めたサービス」を提供できるようになり、観光業界の人材不足リスクを軽減します。

まとめ

海外メディアが日本の観光を評価する軸は、伝統的な文化や自然の美しさから、「いかに深く、本質的に、その地域の日常に入り込めるか」という感情的な体験価値へとシフトしています。日本の強みであるきめ細やかな日常文化や、地域住民の専門知は、この「感情的共鳴」を生み出すための最高の資産です。

この資産をアナログな知見のままにせず、AI標準化、そして移動やマイクロ体験と連携させるための基盤DXこそが、2026年以降、日本の地域経済が持続的な収益を確保するための最優先事項です。単なる「便利さの追求」ではなく、「感情的満足度」を最大化するためのデータ設計こそが、次なる日本の観光DXの主戦場となるでしょう。

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