Z世代が熱視するスーパー巡り:日常消費をデータ資産化する観光経営OS構築

海外メディアに見る「日本の観光地」の評価

はじめに

2026年、日本のインバウンド市場は大きな転換点を迎えています。かつての「ゴールデンルート」を辿り、有名な寺社仏閣をバックに写真を撮るだけの観光は、もはや主流ではありません。海外メディアが今、熱烈に注目しているのは、日本人が日常的に利用する「生活圏」そのものです。特にZ世代を中心とした旅行者の間で、豪華なディナーよりも「地元のスーパーマーケットでの買い物」に価値を見出す「スーパーマーケット・ツーリズム」という新たな潮流が生まれています。

本記事では、海外メディアが報じる最新の訪日観光トレンドを分析し、日本の観光地が直面している課題と、それらを解決して地域経済に確かな収益(ROI)をもたらすためのデジタルトランスフォーメーション(DX)のあり方について、専門的な視点から掘り下げます。

「観光名所」を素通りする新世代:スーパーマーケット・ツーリズムの台頭

エルサレム・ポスト(The Jerusalem Post)が2026年2月23日に報じた記事「Supermarket tourism: Gen Z travelers skip landmarks for local aisles」は、日本の観光業界にとって極めて示唆に富む内容です。この記事によると、特にZ世代の旅行者は、有名なランドマークを訪れる代わりに、地元のスーパーマーケットやコンビニエンスストアの通路を歩くことに時間を費やしているといいます。

【外部ニュース引用】
Supermarket tourism: Gen Z travelers skip landmarks for local aisles – The Jerusalem Post

記事では、ウォルマートやコストコといったグローバルチェーンだけでなく、日本の「ローソン」「ファミリーマート」「セブン-イレブン」といったコンビニ、そして地方の食品スーパーが、今や立派な「観光目的地」として機能していることが指摘されています。彼らが求めているのは、SNSで話題の抹茶味のキットカットや地酒、ふりかけ、わさび菓子といった、その土地ならではの「独占的なフレーバー」や「日常の体験」です。この現象は、単なる節約志向ではなく、「加工されていない、ありのままの日本の生活(Authenticity)」に触れたいという、深い文化的好奇心の現れと言えるでしょう。

海外が評価する「日本の日常」と、露呈した「観光地の弱点」

海外メディアが日本のスーパーマーケットを高く評価する理由は、主に3点に集約されます。第一に、商品の多様性と品質の高さ。第二に、手頃な価格で楽しめる食の冒険。そして第三に、清潔で整然とした店舗運営という「信頼」です。しかし、この評価の裏側で、従来の日本の観光地が抱える深刻な弱点も浮き彫りになっています。

多くの日本の自治体や観光協会は、いまだに「歴史的建造物」や「景勝地」といった固定化された観光資源のプロモーションに固執しています。しかし、旅行者の関心が「モノ」から「日常のコト」へと移っている現在、既存の観光インフラやパッケージツアーは、彼らの柔軟な行動を阻害する「壁」となってしまっています。具体的には、以下の3点が大きな課題です。

1. 消費動線のミスマッチ: 観光客がスーパーで大量の消費を行っているにもかかわらず、地域の観光戦略において小売店が「点」として孤立しており、地域全体の収益最大化に寄与していない。
2. データの欠如: 旅行者がどのスーパーで何を買い、その後どこへ向かったのかという「行動ログ」が捕捉できていないため、次の一手(レコメンドや交通最適化)が打てない。
3. 現場スタッフの負荷: 免税手続きや多言語対応、独特の決済習慣への対応が現場スタッフの過度な負担となり、持続可能なオペレーションが限界に達している。

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地域側が今すぐ取り組むべき「収益直結型DX」

スーパーマーケット・ツーリズムのような「日常消費型」のトレンドを、一過性の流行で終わらせず、地域経済の持続的な収益へと転換するためには、単なるツールの導入ではない、戦略的なDXが不可欠です。自治体やDMO(観光地域づくり法人)が今すぐ着手すべきは、「購買データ」と「移動データ」を統合し、地域経営のOSを構築することです。

具体的には、以下の3つのステップによる実装が求められます。

① 購買データの資産化(リテールテックの活用):
地域のスーパーや小売店と連携し、インバウンド客の購買品目や客単価をリアルタイムで可視化します。これにより、「どの国の客層が、どの時間帯に、どの棚に興味を示しているか」という精緻なマーケティングデータが得られます。このデータは、在庫の最適化だけでなく、地域限定商品の開発や、関連する体験プラン(例:地元の食材を使った料理教室)への誘導を可能にします。

② 「摩擦」を消すための決済・免税DX:
スーパーでの買い物体験における最大のボトルネックは、レジ待ちの列と複雑な免税手続きです。RFIDタグを活用した自動決済や、パスポート情報を即座に連携できるデジタル免税システムの導入により、現場スタッフの負担を劇的に軽減しつつ、観光客の「買い物の楽しさ」を最大化させる必要があります。これは単なる利便性向上ではなく、客単価を数パーセント引き上げるための「収益向上策」です。

③ 移動ログを収益OSへ昇華させる:
スーパーを「ハブ」とした二次交通の再設計も重要です。重い買い物袋を持って移動するのは苦痛であり、それが次の目的地への移動を諦めさせる要因となります。スーパーの購買データとモビリティ(デマンド型交通やシェアサイクル)を連携させ、買い物を終えたタイミングで最適な移動手段を提示する「収益直結型のMaaS」を構築することで、地域内の周遊時間を延ばし、消費機会を増やします。

「人間力」に頼らない、持続可能な観光経営への転換

日本の観光現場では、いまだに「おもてなし」という言葉の下に、現場スタッフの自己犠牲や努力に頼った運営が続いています。しかし、スーパーマーケットのような日常的な場所が観光地化する中では、既存のスタッフだけで増え続ける外国人観光客にきめ細かく対応することには限界があります。

私たちが目指すべきDXのゴールは、現場の「摩擦」をデータで消し去り、スタッフが本当に付加価値の高い業務——例えば、その土地の食材の深いストーリーを伝えることなど——に集中できる環境を整えることです。海外メディアが称賛する「日本の信頼性」は、もはや精神論だけでは維持できません。テクノロジーによって裏打ちされた「仕組みとしての信頼」へとアップグレードする必要があります。

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おわりに

2026年、日本の観光地が勝ち残るための鍵は、海外メディアが報じる「スーパーマーケット・ツーリズム」のような新しい価値観に、いかに迅速に、かつ戦略的に対応できるかにかかっています。それは単に「棚の英語表記を増やす」ことではありません。旅行者の行動一つひとつを「データ」として捉え直し、それを地域の収益(ROI)に直結させるための「観光経営OS」を実装することです。

「日常」という最高の観光資源を、偶然のブームに委ねるのではなく、データに基づいた持続可能なビジネスモデルへと昇華させる。その一歩こそが、日本の観光地が真の「自走」を始めるためのスタートラインとなります。

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